2014年5月20日火曜日

部分と全体

Huluに入ってから、ER以降ほぼ無縁だったアメリカの連続ドラマを見始めた。何作か見たけど、この「ブレイキング・バッド」という傑作の前では、結構気に入っていた「プリズン・ブレイク」もかなりかすんで見えるレベル。とりわけ脚本のレベルが異様に高い。

まず、主人公は若い頃にノーベル賞受賞にも寄与したほどの才能の持ち主だが、何の因果か田舎(ニューメキシコ)の公立高校教師に収まり、家計のためにガソリンスタンドでバイトもしている(おそらくは)(元)天才化学者。10歳下の妻は40歳にして予期していなかった第2子を授かり身重、アメフト選手だった長男はプレー中の事故で脳性麻痺を患っていて松葉杖をついて歩くのがやっとだ。その主人公が肺がんで余命幾ばくもないことがわかり、家族に金を残すために選んだ手段がドラッグの製造。このドラッグがこれまでにないほど純度の高いもので素晴らしく「効き」がよく、市場では瞬く間にその作者ハイゼンベルグの名とともに都市伝説のように広まってしまう。

ってここまではトレーラーでもわかると思うんだけど、既に設定が最高じゃないですか。何一つ思うようでない人生にとどめを刺された主人公の起死回生の一発が大当たり。「ネブラスカ」でも物語の推進力になっていた「もう後がないお父さんが家族に何かを残してやらなくては」というオブセッションが、ちょっとした無理も自然に押し通していく。化学には精通していても特にドラッグにまつわる流通・販売に関しては素人だった教師が、ディーラーを殺し、原材料を盗み、チンピラを使って製造と販売を効率化していく。1人の中年教師が人として凄みを増してゆく様は、上映時間2時間の映画では描ききれないところだろうから、連続ドラマという長尺の強味も生きているといえる。

専門的な知識を背景にシンプルな設定とプロットで見せるって本当に腕のある人の仕事ですよ。ただ「おもしれえなあ」って享受して終わる作品も嫌いじゃないんだけど、こういうシンプルで力強い仕事には創作意欲を喚起されるんだよね。脚本は何人かクレジットされてるけど、おそらく制作総指揮のヴィンス・ギリガンという人がメインなのだろう。登場人物はみんなクセがあるというよりも自己中心的な鬱陶しいタイプの人ばかりなのだけど、安易な人間ドラマに走らずに、台詞よりもアクションで語らせるところも本と演出に自信があるからできることなんだと思う。

余談になるが、黒沢清が言っていた「人を殺すのはいいけど死体の処理が大変なんですよ」という人殺し目線の問題もこの作者は共有しているようで、「24」や「プリズン・ブレイク」のように「殺したら終わり」的な嘘っぽさがないところも好感が持てる。実際に彼らは死体が生じてしまうたびに多大な苦労を強いられることになる。 ジェシーの家の天井からバシャバシャと強酸に溶けた死体の断片が落ちてくるシーン、それに続く掃除のシーンは忘れられないほど素晴らしい。

タイトルは「踏み外し」的な意味らしい。元素記号をモチーフにしたタイトルデザインも地味だけど秀逸。まだ最後まで見てないけど、とにかくこれは必見ですよ。じゃあ。

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